2025年1月31日金曜日

祝! 高知市皿ヶ峰の半自然草地に関する論文が植生学会誌で公開

植生学会誌にて,瀬戸美文さんの草地生植物の生態的特性を調べた論文が公開されました。




祝! 高知大学朝倉キャンパス周辺におけるカラスによる食い荒らしに関する論文がBird Researchで公開

Bird Researchで,修士学生の山田菜月さんによる「高知大学朝倉キャンパス周辺におけるカラスによる食い荒らしに関する論文」がめでたくオンライン公開されました。


山田菜月・山浦悠一・比嘉基紀 (2024) 高知市朝倉のゴミステーションにおけるカラスの食い荒らしに関する研究. Bird Research. 20: A83-A94. 



祝! 三嶺さおりが原において、ニホンジカの採食により衰退した林床植生の復元方法に関する論文がJFRで公開

Journal of Forest Researchで、博士学生の瀬戸美文さん、Diane Shiela C. Castilloさん、Jioie Muriel Aquino dela Vegaさんによる「三嶺さおりが原における、ニホンジカの採食により衰退した林床植生の復元方法に関する論文」がめでたくオンライン公開されました。


論文の内容解説です。

 ニホンジカの過剰な採食による森林生態系への被害が、全国各地で深刻な問題となっています。高知県と徳島県の県境にまたがる剣山系三嶺でも、林床植生の衰退や、樹木の枯死、土砂の流出といった深刻な被害が確認されています。

ニホンジカに樹皮を食べられて枯死した樹木@三嶺
 
 三嶺さおりが原では、ニホンジカの食害が深刻化する前、林床には多年生草本群落やスズタケ群落が生育していました。しかし、2006年頃までにニホンジカによる食害が顕在化し、多年生草本群落やスズタケ群落のほとんどが食べつくされてしまいました。ニホンジカによる採食は現在も続いており、さおりが原の林床は裸地に近い状態です。生残している植物もいますが、その多くはニホンジカが食べない植物です。

ニホンジカが食べない植物(バイケイソウ)に覆われた、さおりが原の林床

 ニホンジカによる食害から植生を守る方法の1つに、防鹿柵の設置があります。さおりが原では2008年からいくつかの防鹿柵が設置されました。多年生草本群落が衰退した場所に2008年に設置された防鹿柵(以後、2008年柵という)内では、植生が徐々に回復し、2015年には食害を受ける前と同等にまで回復しました。但し、このように防鹿柵の設置により植生が回復できるのは、植物の地上部(葉や茎など)はニホンジカに食べられてなくなっていても、地下(土壌中)で根や種子が生存しているからです。一方、長期間にわたり食害を受けた場所では地下の根や種子も衰退してしまうため、防鹿柵を設置しても、元の植生を回復させることは極めて難しいことが知られています。

 瀨戸さんらの研究グループは、長期間にわたる食害を受け衰退した植生の回復を促進する方法として、早期に設置された防鹿柵内で生残している植生の一部を移設する“植生移設”が効果的ではないかと考えました。植生移設は、緑化工学分野において植生の回復に効果的な手法であることが知られています。しかしニホンジカの食害を受け衰退した植生の回復への有効性は明らかにされていせん。そこで、長期間にわたる食害を受け衰退した植生の回復に植生移設が有効であるかを検証するための実験を行いました。

 実験はさおりが原で実施されました。長期間にわたる食害を受け植生が衰退した場所に、新たに4つの防鹿柵を設置し、2008年柵内で回復した多年生草本群落(クルマムグラ群落、マネキグサ群落)を移設しました。植生移設後2年間にわたり植生調査を行い、移設した多年生草本群落の回復状況をモニタリングしました。

 移設先で植生が上手く回復するか否かは、どのような方法で移設するのか(移設手法)、いつ移設するのか(移設時期)、どのような環境の場所に移設するのか等の条件によって異なることが知られています。そこで実験では、植生ブロック移設(土壌も含めた植生を、形を崩すことなく移設する手法)と表土移設(土壌を移設する手法)の2つの手法を用いることで、どちらの手法がより効果的かを検証しました。植生ブロック移設は表土移設に比べ、移設作業に多くの労力が必要となるため、もし植生回復への効果が同程度であれば表土移設を採用するのが望ましいと考えられます。また、移設時期も晩秋(2021年11月)と早春(2022年3月)の2回に分け、どちらの時期の移設がより効果的かを検証しました。移設先の明るさ(光環境)と、水たまりが発生する場所であるかどうか(水攪乱の有無)が、移設した植生の回復に影響するのかも検証しました。

新たに4つの防鹿柵を設置しました。
林床の植生は衰退し、裸地に近い状況です...。

2008年柵内からクルマムグラ群落・マネキグサ群落の植生ブロックを採取し、
新たに設置した柵内に移設しました。

2008年柵内からマネキグサ群落の表土も採取し、新たに設置した柵内に移設しました。

月に1度、植生調査を実施し、移設した植生の回復状況を記録しました。

左列は、マネキグサ群落の植生ブロックを移設した場所、
右列は、マネキグサ群落の表土を移設した場所です。
植生ブロック移設をした場所のほうが、良好に回復していることがわかります。

移設を行っていない場所では、防鹿柵内であっても植生は回復していません。


 実験の結果、2008年柵内で確認されている種でニホンジカの採食対象となる草本種22種(以降、回復期待種という)のうち、クルマムグラ群落の植生ブロックを移設した場所では10種、マネキグサ群落の植生ブロックを移設した場所では12種、マネキグサ群落の表土を移設した場所では10種、植生移設を行わなかった場所では6種が回復しました。回復期待種のうち9種は、どの場所でも確認されませんでした。回復期待種の被度(地表を植生が覆う割合)や最大草丈は、植生ブロック移設を行った場所、マネキグサ群落の表土を移設した場所の順に高くなりました。植生移設を行わなかった場所では、回復期待種よりもニホンジカに食べられない草本種の被度が高くなりました。植生移設を行った場所では、開花・結実した種回復期待種も多く確認されました。これらのことから、植生ブロック移設や表土移設が、長期にわたる食害により衰退した植生の回復に有効であることが明らかとなりました。
植生ブロック移設と表土移設との効果を比較すると、回復期待種の種数や被度、最大草丈、開花・結実した種数は、植生ブロック移設を行った場所で高くなっていました。表土移設を行った場所では、木本種やニホンジカに食べられない草本種の被度や最大草丈が高くなっていました。このことから、植生ブロック移設は表土移設に比べて移設作業に多くの労力を要するものの、植生の回復をより効果的に促進するためには、植生ブロック移設を採用することが望ましいことが示唆されました。
 

2008年柵内で確認されている種で鹿の採食対象となる草本種(回復期待種)、鹿が食べない草本種、木本種の累積被度 (%) と最大草丈 (cm)。クルマムグラ群落の植生ブロック移設区、マネキグサ群落の植生ブロック移設区、マネキグサ群落の表土移設区、移設をしていない実験区、それぞれでの継時変動を示す。

 光環境は、回復期待種の回復にはあまり影響していませんでしたが、木本種やニホンジカに食べられない草本種の成長が明るい場所で促進されました。このことから、木本種やニホンジカに食べられない草本種の繁茂を防ぐためには、明るすぎない場所へ植生移設することが望ましいことが示唆されました。回復期待種は、2022年3月に移設された場合よりも、2021年11月に移設された場合で良好に回復しました。水攪乱の有無は、回復期待種の回復にはほとんど影響していませんでした。

 以上のことから、長期間にわたる食害により植生が衰退した場所では、防鹿柵の設置に加えて植生ブロック移設を行うことで、植生の回復を促進できることが明らかとなりました。但し、回復しなかった種もあったため、植生移設を行ったとしても植生を完全に回復させることは難しいことも示唆されました。また、今回の研究で、植生移設によって衰退した植生を回復させることができたのは、さおりが原では食害が確認された後早期に防鹿柵が設置され、本来の植生が回復・生残していたからこそです。国内の多くの地域で、ニホンジカによる食害は刻々と進行しています。食害の程度がまだ軽微な場所では、できるだけ早く防鹿柵を設置し、現在の植生を保全することが何より重要です。

 三嶺でのニホンジカによる食害の状況や森林保全活動についてより詳しく知りたい方は、三嶺の森をまもるみんなの会のホームページをご覧ください。